※研究者の所属等は受賞時点のものです
授賞課題:微分位相コントラスト STEM による材料界面磁気構造解析手法の開発と応用
東京大学大学院 工学系研究科 助教
遠山 慧子(とおやま さとこ)
遠山慧子氏は、大学院博士課程の研究以来、微分位相コントラスト(DPC)STEM法の開発とその応用研究に取り組んできました。特に結晶性試料をDPC-STEMで観察するとき、界面歪みによるアーティファクトである回折コントラストを、独自開発の傾斜走査平均化DPC-STEM法(t-DPC-STEM)によって低減する方法の提案は高く評価できます。遠山氏は、この方法を酸化物界面やワイドギャップ半導体に適用し、前者では界面付近の荷電にともなう静電ポテンシャルの変化、後者では界面近傍に局在する2次元電子ガスの実空間観察に成功しており、ハイインパクトジャーナルなどにも発表してきました。
今回、その観察技術をスピントロニクス材料界面に適用し、平均内部電位によるコントラストと界面磁場によるコントラストを定量的に分離して、界面の磁場および磁性構造を可視化して、ナノスケールの界面磁性劣化層の研究を行おうとするものです。
具体的方法としては、上記の傾斜走査平均化DPC-STEM法を用いますが、静電ポテンシャルによるコントラストと、磁場成分によるそれを定量的に分離することが実験上の中心課題となります。遠山氏は、試料近傍での外部磁場印加によるコントラスト変化や試料の加熱・冷却・裏返しなどによる像変化を組みあわせ、この分離方法を確立することを第1の目標としています。さらに、その成果をもとに磁性薄膜ヘテロ界面の観察を行い、界面磁性劣化層の空間分布を可視化するとともに、マイクロマグネテックスシミュレーション(MuMax3)計算とも比較して研究を進めていく予定です。
遠山氏は、近年開発された無磁場対物レンズを搭載した高分解能収差補正STEMを使用できる環境にあり、本研究が原子レベルの界面磁性構造の研究に発展する可能性が高く、本研究分野のブレークスルーにつながることが期待されます。
よって、今後の研究の一層の発展を期待して、ここに風戸研究奨励賞を贈呈します。
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