事業内容、設立と経緯
事業内容
当会は、若手研究者による電子顕微鏡に関する研究を奨励し、学術の振興に寄与することを目的に、電子顕微鏡並びに関連装置を用いた研究推進の事業を行っております。研究成果の褒賞としての<風戸賞>、研究費助成としての<風戸研究奨励賞>、国際会議への渡航費助成としての<国際会議発表渡航助成>、受賞講演会の開催等を通して、電子顕微鏡並びにその関連分野で活躍する研究者を支援しています。
設立と経緯
日本電子株式会社の創設者で社長であった風戸健二氏は、電子顕微鏡をつくるために会社を設立して以来、受けた恩顧を社会に還元し感謝の気持ちを示したいと考え、1968年日本電子(株)の創立20周年を記念して私財から日本電子の株券10万株を寄付することにされた。この寄付を最も有効に使う方法について日本電子顕微鏡学会の主だった人々が親しい方々と相談し、電子顕微鏡及びそれを用いた研究を推進する財団法人を設立することになった。1968年9月財団法人風戸研究奨励会設立発起人会が発足し、設立趣意書を採択した。この発起人会のメンバーは次の通りであった。
東 昇 氏 | 京都大学 教授 |
高橋 氏 | 山梨大学 教授 |
幸田 成康 氏 | 東北大学 教授 |
富本 為雄 氏 | 日本電子(株) 次長 |
深見 章 氏 | 日本大学 教授 |
藤代 正巳 氏 | 日本電子(株) 専務取締役 |
(肩書きは1968年当時のものである)
同年12月、財団法人風戸研究奨励会の設立が文部省より認可され、翌1969年1月にその登記を完了した。財団発足に当っては前述の発起人が理事(4名)と監事(2名)になり財団の運営にあたった。寄付された日本電子の株券のうち5万株は財団設立手続き中に22,984,500円で市場に売却され、そのうちの20,000,000円と残りの株券50,000株が財団の基本財産となった。後に日本電子(株)の増資により基本財産の株券は、29,200株増加し、現在79,200株となっている。
財団発足と同時に二種類の事業を開始した。一つは若手の研究者による電子顕微鏡及びそれを用いた研究の奨励であり、もう一つは電子顕微鏡及びそれを用いた研究を国際会議で発表するための援助であった。
1975年に至り風戸氏は日本電子(株)の社長を辞任し、加勢忠雄氏が社長に就任した。加勢氏は電子顕微鏡及びそれを用いた研究の分野において財団が果たしてきた価値ある役割を考慮し、また日本電子(株)の創立者である「風戸」の名前を永く残したいと考え、その当時資金の不足に悩んでいた風戸研究奨励会に対し日本電子(株)より寄付を行い、その活動を継続出来るようにした。この方針は歴代の社長に引き継がれ、財団は日本電子(株)より定期的に寄付をうけてその活動を行っている。この日本電子グループよりの寄付の総額は、2023年迄に401,300,000円に達している。財団が助成した各年度の研究者の数と金額は下の表に示す通りであり、合計688名274,180,000円にのぼる。
2007年度からは、従来の <風戸研究奨励金> の制度を<風戸賞>と <風戸研究奨励賞> とし、更に2008年度からは <国際会議発表研究費助成> を <国際会議発表渡航助成> として一新した。
2012年4月、公益法人制度改革に伴い、「公益財団法人風戸研究奨励会」として新たにスタートした。
年度 | 人数 | 金額 (千円) |
年度 | 人数 | 金額 (千円) |
年度 | 人数 | 金額 (千円) |
年度 | 人数 | 金額 (千円) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1969 | 8 | 2,000 | 1983 | 5 | 1,000 | 1997 | 3 | 3,000 | 2011 | 7 | 5,800 |
1970 | 10 | 1,920 | 1984 | 34 | 5,500 | 1998 | 19 | 6,250 | 2012 | 7 | 5,900 |
1971 | 10 | 1,900 | 1985 | 9 | 2,750 | 1999 | 4 | 4,000 | 2013 | 15 | 8,300 |
1972 | 7 | 1,100 | 1986 | 62 | 3,700 | 2000 | 14 | 5,000 | 2014 | 18 | 8,082 |
1973 | 8 | 2,400 | 1987 | 4 | 1,000 | 2001 | 4 | 4,000 | 2015 | 5 | 11,308 |
1974 | 4 | 800 | 1988 | 39 | 5,330 | 2002 | 17 | 6,150 | 2016 | 6 | 8,619 |
1975 | 4 | 800 | 1989 | 4 | 2,000 | 2003 | 4 | 4,000 | 2017 | 4 | 8,000 |
1976 | 4 | 800 | 1990 | 37 | 5,300 | 2004 | 31 | 5,450 | 2018 | 20 | 11,918 |
1977 | 0 | 0 | 1991 | 6 | 4,000 | 2005 | 4 | 4,000 | 2019 | 10 | 9,500 |
1978 | 12 | 3,500 | 1992 | 29 | 6,000 | 2006 | 34 | 7,300 | 2020 | 6 | 10,000 |
1979 | 1 | 200 | 1993 | 6 | 4,000 | 2007 | 4 | 3,000 | 2021 | 6 | 10,000 |
1980 | 16 | 4,200 | 1994 | 28 | 6,200 | 2008 | 11 | 6,200 | 2022 | 9 | 10,900 |
1981 | 3 | 500 | 1995 | 4 | 3,370 | 2009 | 8 | 5,800 | 2023 | 16 | 12,000 |
1982 | 16 | 6,000 | 1996 | 14 | 4,950 | 2010 | 18 | 10,200 |
設立趣意書
電子顕微鏡は、電子回折と結びついて以来、単に高倍率で組織を観察するだけでなく、結晶構造の研究、合金や化学物における相変化、種々の結晶格子欠陥の検討が可能になった。
これに伴い、本来の分野である電子光学から、物理学、結晶学、金属学、化学等の広い範囲にわたって研究が進み、応用方面ではほとんどすべての工業材料の研究に使用されている。
一方、医学生物学の分野においても、ミクロトーム技術の発達とともに、超薄切片の製作が可能になり、細胞の微細構造の研究が著しく進み、バクテリヤ、ウイールス等微生物の研究は飛躍的進歩を遂げた。
そのレパートリの広さにおいて、電子顕微鏡は、ほとんど自然科学の全分野にわたっているといっても過言ではない。
さらに、近来は、超高圧電子顕微鏡が開発せられ、これらに伴う新しい物理現象の解明が進み、その著しい透過能の増大により、従来より厚い試料の観察が可能になり、特に金属学において大きな利点が認められている。
さらに、微生物の生態観察(細胞分裂)の可能性も期待されるにいたり、新たな応用分野が開拓されつつある。
以上は、主として透過型電子顕微鏡であるが、このほか、走査型、電界放射型、イオン放射型等、新しい電子顕微鏡の開発が進み、漸次、その応用分野も広がるすう勢にある。
これらの状勢を顧みるとき、電子顕微鏡の研究は、電子顕微鏡自体の性能の向上、新機種の開発が直ちに新しい応用研究につながり、これらはしばしば、自然科学の各分野を横に結ぶ役割も演じているので、その研究奨励は極めて重要である。
一方、電子顕微鏡は、我国開国以来、はじめて海外に輸出された国産の大型科学器械であり、今日、広く、国際的に進出しているのみならず、世界に科学日本の存在を誇示している分野である。
かかる状況の下にあって、電子顕微鏡の研究が、今後、益々意欲的、かつ、強力に推進され、もって世界の学術、文化に貢献される一助にならんことを望み、ここに財団法人風戸研究奨励会を設立せんとするものであります。
風戸 健二 略歴
大正 6 年 7 月 | 千葉県茂原町に生まれる |
昭和 13 年 3 月 | 海軍機関学校卒業 |
昭和 19 年 11 月 | 海軍技術研究所電波研究部勤務 |
昭和 21 年 4 月 | 千葉県茂原町にて電子顕微鏡の開発を開始 |
昭和 24 年 5 月 | 株式会社日本電子光学研究所設立 取締役社長 |
昭和 36 年 5 月 | 社名を日本電子株式会社に変更 |
昭和 37 年 4 月 | 株式を東京証券取引所に上場 |
昭和 43 年 5 月 | 日本電子顕微鏡学会 43 年度会長に就任 |
昭和 46 年 2 月 | 紫綬褒章受賞 |
昭和 50 年 5 月 | 取締役相談役を経て相談役となる 日本顕微鏡学会名誉会員 |
平成 24 年 6 月 | 26日逝去。享年94歳。 |
更新日:2024年4月1日