池ノ内順一氏は、電子顕微鏡法を用いた細胞膜の形態観察を基に、細胞生物学と脂質化学の研究を進め、上皮細胞のバリアを形成する機構や極性を維持する様々な新規機構を解明しました。
生体を区画する細胞接着の研究分野では、カドヘリンやクローディンが発見されて、2細胞間を接着する機構の研究が進んでいましたが、完全に境界面のバリアを形成するには、3つの細胞が接する部分のバリアを形成する必要があり、池ノ内氏は、①その中心となるトリセルリンを発見してこの機能解析も進めました。
また上皮細胞膜では、上部と側底部の脂質分子の移動が阻害されて特徴的な細胞極性が維持されていますが、②この制御はクローディンではなく、脂質分子の移動を阻害する新規制御因子として FRMD4A を同定しました。
さらに、③タイトジャンクションの機能にはコレステロールの集積が必要不可欠であること、また④この集積には Zonula Occludens (ZO) タンパク質群が媒介すること、すなわち、ZO タンパク質群はクローディンの足場としてだけではなく、コレステロールを集積して機能的なタイトジャンクションを形成させる役割を担っていることも解明しました。
トリセルリンの同定に関連した2つの論文は、Web of Science でそれぞれ529回と580回の引用回数で、極性維持機構の Cell の論文は597回の引用がなされるなど、高い評価を得ています。
このように、池ノ内順一氏は、電子顕微鏡法を活用すると共に、これまで研究が困難であった脂質分子の分布や機能を解明する研究手法を開発して、細胞極性を維持する新規制御因子を同定し、脂質分子も関わる上皮細胞のバリア形成機構を解析することで、教科書を書き換える数々の研究成果を挙げています。
よって、これらの成果に対して、ここに風戸賞を贈呈します。
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