※研究者の所属等は受賞時点のものです
授賞課題:CRISPR-Cas酵素Cas9の分子進化を可視化する
東京大学 先端科学技術研究センター 特任講師
加藤 一希
加藤一希氏の研究は、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析法を活用して、IscBからCas9にわたる酵素とRNA-DNAとの複合体の立体構造を数多く解析し、これらの分子進化を可視化し、IscBのDNA切断効率を人工的に向上させることに挑戦するものです。
細菌の適応免疫システムであるCRISPR-CasのCRISPRはClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(規則的に点在する短い回文様繰り返し配列の集合)の頭文字をとった略号であり、CasはCRISPR associated酵素であることからこのように呼ばれます。これを活用したゲノム編集機構が、エマニュエル・シャルパンティエ博士とジェニファー・ダウドナ博士らによって解析されて広く活用されることになり、ゲノム編集技術が飛躍的に進歩したので2020年のノーベル化学賞が両氏に授与されました。この様なシステムに興味を持ち、加藤一希氏らはバクテリア由来のIscB複合体などの立体構造をクライオ電子顕微鏡と単粒子解析法を用いて解析し、注目される論文を発表しています。
加藤氏は、比較的小さいIscBから大きいCas9などと核酸との複合体の構造を分子進化的視点で可視化するという研究を計画しています。またその結果をさらに発展させて高いDNA切断効率を有するIscB様酵素を創出するとしています。これらの計画で、分子進化を理解することや真に有用な技術開発ができるかは結果を待たなければなりませんが、本賞の選考基準である将来性の高さに疑問の余地はなく、また影響の大きい分野であるゲノム編集技術の有用性がさらに高まることが期待されます。
IscBからCas9への分子進化の過程が可視化され、新しいIscB関連のシステムが開発されることを期待して、風戸研究奨励賞を贈呈します。
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