齋藤明氏の研究は、上皮組織の頂端面にはタイトジャンクション(TJ)と呼ばれる細胞間接着構造が存在しますが、この構成分子であるシンギュリンとパラシンギュリンのバリア機能の調節機序を明らかにするものです。
TJは、上皮組織の細胞間隙をシールしつつ、選択的な物質透過を行います。この細胞間経路には、ポア経路とリーク経路が存在していることが知られており、クローディンをはじめとした細胞間接着分子で構築されています。前者はイオンなどの低分子に対する透過能を持ち、後者はTJストランドの局所的破綻に起因する高分子の通過が想定されており、TJの裏打ち分子や細胞骨格系等を介して物質透過量が調整されます。
受賞者らは過去に、TJの構成分子であるオクルディンとトリセルリンの遺伝子をダブルKOしたMDCK細胞を用いて、単独KOではみられなかった、細胞間隙の物質透過性の上昇とTJストランド構造の網目分岐の減少といった表現型をフリーズフラクチャーを用いた電子顕微鏡の観察により見出しました。また両者の関係性を数理モデルによって理論的に明らかにし、オクルディンとトリセルリンが協調的に網目構造を複雑化することで、バリア機能の増強に貢献すると提案しています。今回の研究はこれらの成果をもとに、TJの膜裏打ち分子であるシンギュリンとパラシンギュリンのダブルKO細胞を作成し、外来物質の透過性変化および電顕で観察された構造変化を数理解析することで、バリア破綻との関連を追及するものです。本研究計画で、新たに共免疫沈降で同定された14-3-3ηを含めて調べることで、上皮バリアの動的調節機構の理解が深まり、生体バリアの恒常性維持に果たす細胞間接着機能の解明に寄与するものと思われます。
よって、今後の研究の一層の発展を期待して、ここに風戸研究奨励賞を贈呈します。
|