受賞者

令和2年度<風戸賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:透過型電子顕微鏡による溶媒からの結晶化過程その場観察

北海道大学 低温科学研究所 准教授
木村 勇気

木村勇気氏は、イオン液体を溶媒として用いた独自のTEM観察手法により、溶液からの結晶成長の初期段階において、核の生成・消滅という揺らぎ現象の直接観察に世界で初めて成功した。従来の最終生成物の微小核が成長してゆくという核形成過程に対し、電子顕微鏡を用いた直接観察により新たな核生成初期過程を見出した点は高く評価される。

融液からの結晶成長の初期過程は、従来、結晶が核生成を経て直接成長すると考えられていた。木村氏は、イオン液体を溶媒として過飽和度を制御した溶液をマイクログリッドの穴に付着させた試料を作製し、TEMによる系統的な観察を行った。その結果、理論的に予測されていたが実験的に裏付けのなかった、未飽和や平衡状態における微結晶の溶解と析出過程を直接観察することに初めて成功した。この観察により、安定構造の微結晶と同時に準安定構造の微結晶も生成し、両者の競合の結果として最終的に析出する結晶がきまるという核生成モデルの提案に至った。また、それまで通説であった“水溶液中の結晶化の最大の障壁が脱水和であるという通説が正しいことを、水の存在しないイオン液体中での結晶化のTEM観察から明らかにした。さらには、過飽和度を精密に制御した水溶液のTEM観察から、従来は難しいとされた有機材料の結晶化の瞬間をとらえることに成功し、米国科学アカデミー紀要のハイライト論文として紹介された。その他、水和物の反応速度測定、塩ナノ粒子の析出・溶解の動的平衡の直接観察など、TEMでのイオン液体を中心とした液中観察により結晶成長初期過程の先駆 的な直接観察を行ってきた。

以上の、木村氏の先駆的な研究は高く評価され、国際結晶成長機構から日本人初の Schieber Prize 2013年)、日本結晶成長学会から論文賞(2019年)、文部科学大臣表彰(若手科学者賞、2010年度)、日本学術振興会賞(2018年)などを受賞している。木村勇気氏の、イオン液体を溶媒とした結晶化過程の電子顕微鏡その場観察により「核成長初期過程の様相」を明らかにして核成長モデルの提案を行ったことは、電子顕微鏡を用いた現象の解明という点で高く評価できる。

よって、これらの成果に対して、ここに風戸賞を贈呈します。

木村 勇気
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