※研究者の所属等は受賞時点のものです
授賞課題:クライオ電子顕微鏡によるマイナス鎖RNAウイルスの構造研究
京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 特定助教
杉田 征彦
杉田征彦氏の研究は、インフルエンザウィルスの野生型リボ核タンパク質複合体(RNP)について、クライオ電子顕微鏡を活用した単粒子解析法により、原子分解能での立体構造を解析しようとするものです。
RNPは、ウィルスのRNAを宿主細胞の分解機構から守るとともに、転写・複製の機能単位としての機能も有しているので、ウィルス増殖における中心的な役割を果たしています。それゆえ、ウィルス対策のような応用面からもRNPの構造やその形成機構の解明は重要と思われます。インフルエンザウィルスの野生型RNPは8種類が知られており、柔軟で構造多形を示すことが予想されますので、高分解能の構造解析法として実績がある結晶学的手法での構造解析は困難と思われます。しかも、インフルエンザウィルスのゲノムRNAは分節化しており、各分節が核タンパク質やRNAポリメラーゼ複合体と結合してRNPを形成していますので、一定の固い構造を形成しない傾向にあります。それゆえ、RNPの構造解析については、10Åより悪い分解能の報告しか無く、複合体内の分子間相互作用機構などは理解できていません。
杉田氏は、最近目覚ましく発展しているクライオ電子顕微鏡による構造解析法を用いて、インフルエンザウィルスのRNP構造を高い分解能で解析し、RNPを構成する分子間の相互作用とRNPを形成する機構を解明することを目指しています。
杉田氏が目指しているRNAウィルスの高分解能の構造解析研究は容易ではないが、杉田氏らは、クライオ電子顕微鏡を用いたエボラウィルスのマイナス鎖RNAウィルス部分の構造解析に成功しており、柔軟で多形構造を示す本標的の様に構造解析が困難と思われる研究課題についても、所期の目標を達成できると期待されます。
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