受賞者

令和元年度<風戸賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:「STEM電子回折法を用いた非晶質物質の局所構造解析」

早稲田大学 理工学術院 教授
平田 秋彦

平田秋彦氏は、微小電子回折と計算科学を併用して非晶質物質の構造解析を行ってきました。とくに走査透過電子顕微鏡(STEM)により生成されたサブナノメータサイズの電子プローブを用いた電子回折法(ABED)により、非晶質物質の局所領域の構造情報を実験的に得ることに成功し、Zr80Pt20金属ガラスは歪んだ二十面体クラスターが構造モティーフになっていることを明らかにしました。またこの方法を非晶質SiOにも適用することで、SiOの不均一化構造を解明しました。非晶質SiOは非晶質Siと非晶質SiO2が単純に混ざり合ったものではなく、その界面には配位構造の異なる相が共存することで不均一化が生じていることを明らかにしました。

同氏は微小電子回折で構造情報を実験的に得るだけでなく、構造モデルまでも構築することを目的として、分子動力学法による非晶質構造のモデリングから局所多面体構造を抽出し、そのシミュレーション回折パターンとABEDによる実験パターンとを整合させることで非晶質構造の実態に迫っています。最近では、少数原子クラスターの多面体構造モデルから出発し、各原子位置をランダムに変位させた局所構造の計算回折パターンとABED※パターンを直接比較し、その差が極小になるような構造モデルを計算機のなかで得る逆モンテカルロ法を開発しました。そしてこの方法を用いて相変化記録材料である非晶質Ge-Sb-Teの構造解明にも成功しています。

非晶質物質の構造解明には、構造モデルから種々の多面体を抽出し、その配位構造や結合距離などを調べるボロノイ解析などの数学的手法が不可欠ですが、平田氏はさらに数学者と連携し、歪んだ原子配列の解析により適したホモロジー解析にも意欲的に取り組んでおり、当該研究分野では世界をリードしている研究者の一人です。同氏の研究成果のインパクトは非常に高く、今後の更なる活躍が期待されます。

ABED※: Angstrom beam electron diffraction

平田 秋彦
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