※研究者の所属等は受賞時点のものです
授賞課題:「有機単分子励起運動の高分解能電子顕微鏡観察法の開発」
(独)産業技術総合研究所 ナノチューブ応用研究センター 研究チーム長
越野 雅至
越野 雅至氏は、カーボンナノチューブに閉じ込めた有機単分子を高分解能電子顕微鏡法で観察し、電子線照射下での分子の様々な励起運動や、コンフォーメーション(立体配座)変化を原子レベルで明らかにすることに世界で初めて成功し、永らく期待されていた電子顕微鏡法で分子の動きや反応を原子レベルで観る手法を切り開きました。
有機分子を電子顕微鏡で観察するには、その基本骨格であるアルキル鎖、ベンゼン環、アミド結合が壊れないように電子線照射を極力減らす方法が一般には必要とされています。越野 雅至氏は、個々の有機分子を直径1~2nmほどのカーボンナノチューブ内に孤立させ閉じ込めるという工夫を凝らすことによって有機分子同士の化学反応を抑制し、有機分子結晶が破壊される臨界ドーズ量の数十〜数百倍の強い電子線照射のもとでも、カーボンナノチューブ内の有機分子一つ一つの並進・回転・コンフォーメーション変化などの動きが原子的レベルで観察できることを見出しました。さらに、カーボンナノチューブの欠陥形成や、ナノチューブの欠陥部を脂質アルキル鎖分子が透過する様子を、電子顕微鏡観察から明らかにしています。
これらの越野 雅至氏の研究成果は、サイエンス誌などで報じられ、国際的にも高い評価を得ています。単一有機分子の動きを原子レベルで観察するという大きな成果は、有機分子化学や有機分子材料学の進展へ向けて大きな第一歩を踏み出したものであり、これからの発展に貢献するものであります。
|
|