受賞者

平成30年度<風戸賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:「原子間力顕微鏡(AFM)を用いた単原子分子の計測・制御技術の開発」

東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 准教授
杉本 宜昭

杉本宜昭氏は、原子間力顕微鏡(AFM)技術の高度化を通して、独自の単原子計測技術を発展させてきました。とくに探針と表面原子の間に働く相互作用力を精密に測定する技術を確立し、個々の原子の識別やその反応性の測定や、室温での原子操作を通してナノ構造体の組み立てなどが可能であることを実験的に示してきました。本成果は、単原子レベルの分析と個々の原子からナノ構造体を創出するという究極的な技術開発に直結しています。

同氏は、上述の成果に加え、位置決め精度の向上、探針と原子との化学結合力を利用した原子操作などの新たな成果もあげています。たとえば、共有結合性の元素を用いて、2原子間に働く化学結合力を系統的に計測し、ポーリングの予想を直接検証することに成功しています。また、2原子間を流れる電流を精密に測定し、電流が化学結合力の二乗に比例するという関係も導いています。さらに、電気陰性度が異なる2原子間の化学結合力を測定することにより、極性結合力が実際に作用することを実証し、個々の原子の電気陰性度を測定した結果は画期的な成果として特筆できます。

一方、原子操作に関しては、2原子位置を交換する新規な手法の開発を行うとともに、室温でナノ構造体を組み立て、表面に埋め込まれた原子の配列を自由に組み替えることに成功しました。さらにこの技術を応用し、三次元的なナノ構造体を作成し、これを原子スイッチとして機能させることにも成功しています。

これらの一連の業績における杉本氏の貢献は極めて大きく、特に同氏が中心になって発展させた原子一個の電気陰性度測定、単分子の化学構造の可視化、原子スイッチ操作などの成果は、ハイインパクトな学術誌にも多数掲載されており、国際的にも極めて高く評価されています。今後も化学と物理学の境界分野において、AFMを用いた新しい展開が同氏によって行われることが期待されます。

杉本 宜昭
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