受賞者

平成30年度<風戸研究奨励賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:三次元電子顕微鏡法を用いたイネ科塩腺の機能形態の解明

名古屋大学 大学院 生命農学研究科 助教
大井 崇生

大井崇生氏の研究は、植物の生育に深刻な影響を及ぼす塩害に対し、過剰な塩分を排出する塩腺の機能形態について、集束イオンビーム走査電顕法(FIB-SEM)により三次元像再構築し、耐塩性をもつ植物の塩類イオン排出機構を明らかにするものです。

植物葉の塩類排出機構として、塩?細胞や多細胞塩腺など3種類が知られています。大井博士は、その一つイネ科シバ類ローズグラスの葉に分布する径15μm程の極小型の細胞二層で構成される塩腺を、水分試料観察の可能な低真空モードSEMによって観察し、排出する塩水滴は塩腺の真上で75μm程の小滴で留まり周囲の葉表面には拡散しないこと、クライオSEM観察により、塩溶液が頂部細胞の細胞壁とクチクラを透過して持続的に浸み出すことなどを明らかにしています。透過電顕の横断像では、細胞質は高密度で塩?細胞のような中央液胞はなく、基部細胞には多数のミトコンドリアや特殊な陥入膜構造を観察しました。この膜系は、塩水魚類・鰓の塩類細胞や哺乳類胃腺の塩酸分泌細胞にみる特殊膜系と類似し、イオン排出機能に重要な役割を担うと想定されますが、複雑な膜構造の全体像を解明するに至っていません。

本研究は、博士らが先にイネ科葉肉細胞で構造解析したFIB-SEM法を用いて、塩腺細胞の三次元構造を再構築し、特殊膜構造の全立体像やミトコンドリアなどとの定量解析により、塩類排出機構の機能構造基盤の解明を目指すものであり、環境変動による作物や土壌への塩害被害の深刻化に対する耐塩性改善に貢献できるものと思われます。

大井 崇生
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