受賞者

平成28年度<風戸賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:「ELNES理論計算に関する基礎的研究と物質研究への応用」

東京大学 生産技術研究所 准教授
溝口 照康

溝口照康氏は、電子エネルギー損失スペクトルで測定される内殻電子励起の吸収端微細構造(ELNES)の理論計算にいち早く着手し、ELNESの解釈において長年大きな課題であった内殻ホール効果の解明に成功し、ELNESによる物質の局所電子構造解析の進展に大きく貢献しています。

溝口氏は、OLCAO法による第一原理バンド構造計算を用いて、物質に固有のELNESを系統的に解析した結果、ELNESの理論計算における内殻ホール効果の重要性を実証しました。さらに、内殻ホールと励起電子の二粒子間束縛状態を、ベーテ・サルピーター方程式で解く二粒子法を適用することにより、内殻エキシトンピークの定量的な解釈に成功しました。また、遷移金属酸化物のように電子相関の強い材料から測定されたELNESについては、相対論的な第一原理多重項計算を適用し、内殻ホールばかりでなく配置間相互作用も取り入れた多粒子計算を行い、多くの成果を挙げてきました。最近では、分子動力学計算と電子構造計算を併用することにより、固体ばかりでなく液体や気体から測定されたELNESを解析する、新しい手法を独自に開拓し注目されています。これら一連の研究は、広範な物質から測定される様々なELNES を利用した物質の状態分析法として、これまで用いられてきた指紋照合法を超えた、定量的な分析法を提示した点で大きな意義があります。

溝口氏の主要な研究成果は、インパクトの高い国際誌に多数掲載されているほか、国際会議でも多くの招待講演を行っており、国際的にも高く評価されております。

溝口氏は、分析電子顕微鏡による状態分析を基軸とした新たな物質研究の可能性を探索しており、材料科学分野での溝口氏の今後の活躍が大いに期待されています。


東京大学 生産技術研究所

溝口 照康
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