受賞者

平成27年度<風戸研究奨励賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:透過電子顕微鏡による結晶性分子集合体の核形成機構解明

東京大学 総括プロジェクト機構 特任准教授
原野 幸治

原野 幸治氏の研究は、さまざまな分子同士が集合する様子を高分解能電子顕微鏡を用いて実時間で観察しようとする研究で、分子集合体の核形成機構や結晶化過程を解明するためにたいへん重要な研究です。

結晶性分子集合体は、自然界でも産業界でも極めて重要な物質群のひとつですが、その性質・機能は完全に理解・制御されているとは言えません。とくに個別の分子ひとつひとつの性質からそれらの集合体がもつ物性機能を予測することは極めて困難です。分子と機能との間のつながりを理解し制御していくためには、複雑な核形成過程の解明やその集合体構造のダイナミクスを実験的に検証することが必要です。これらにより結晶構造や形態制御を通して、試行錯誤によらない固体物質機能の合理設計を目指すことが可能になります。

原野氏の研究は、この分子集合体の核形成過程を直接観察するための手法開発に重点をおいたものです。とくに、カーボンナノチューブを利用した独自のサンプリング法を用いてvan der Waals錯体のような弱い分子間力で集まった集合体でも安定に電子顕微鏡観察が可能であることを示した点で画期的です。同氏はすでに、この手法をもちいてY字型分子の結晶核前駆体の分子レベル構造を捉えることに成功しています。

分子が結晶化する初期過程を直接電子顕微鏡観察する手法が開発できれば、今後多くの分野に貢献できると考えられます。原野氏の研究はとくに、金属有機構造体(MOF)の生成機構の解明や、アミロイドβペプチドの会合による繊維形成における核形成過程の観察などに応用・発展されていくものと期待されます。物質科学だけでなく、医薬・生命分野の技術革新にもつながる挑戦的な研究です。


東京大学 総括プロジェクト機構

原野 幸治
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