※研究者の所属等は受賞時点のものです
授賞課題:球面収差補正装置(Delta Corrector)およびSRAM収差計測法の開発
日本電子株式会社 EM事業ユニット グループ長
沢田 英敬
沢田英敬氏は、加速電圧300 kVの冷陰極電界放出型電子銃と非対称型収差補正装置を装備した0.5 Å 分解能物質解析電子顕微鏡の開発において、収差を測定してそれを収差補正装置の各素子にフィードバックするSRAM(Segmented Ronchigram Auto-correlation function Matrix)法という収差補正システムを考案・開発し、Ge[114]試料を用いて、当時(2009年)の世界最高となる0.47 Å の分解能を達成しました。沢田氏が開発した収差測定法は、STEMの照射系の収差計測に適用されたアルゴリズムで、複雑な光学系の調整を高速・高精度にかつ自動的に行なうための手法で、標準試料を必要とせず、観察対象の試料端に存在するアモルファス領域で収差計測できることが利点です。
沢田氏はさらに、電子線による試料損傷を低減するために加速電圧を数十kVにまで下げた低加速原子分解能電子顕微鏡の開発において、より高次の収差補正が可能な3段12極子から成る収差補正装置(Delta Corrector)を考案・開発しました。この補正装置では六回非点が補正され、より大きな角度まで収差の補正が可能で、低加速電圧で顕著となる回折収差が抑えられることになり、加速電圧60 kVで0.82 Å、30 kVで1.42 Åの像取得に成功しました。また、EELSとの組み合わせにより行われた、“グラフェン膜のエッジからの単原子スペクトル”の取得はDelta Correctorが活用された成果であり、Delta Correctorを装備した低加速電子顕微鏡の有用性が高く評価されています。収差補正装置の開発の成果は、P.W. Hawkes監修の権威ある学術叢書Advances in Imaging and Electron Physicsに “Aberration Correctors Developed Under the Triple C Project”と題する一つのチャプターとして、沢田氏によって執筆されています。
収差補正技術に関しては、20世紀末から21世紀初頭にかけて欧米の主導で進められ、日本は一歩出遅れましたが、沢田氏が考案・開発した上記の収差補正技術は、我が国の電子顕微鏡技術を再び世界のトップレベルにまで引き上げた、日本独自の優れた技術であります。
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