受賞者

平成30年度<風戸研究奨励賞> 受賞

※研究者の所属等は受賞時点のものです

授賞課題:電子らせん波を利用した単原子磁気モーメントの研究

産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門 研究員
林 永昌

林永昌氏の研究は、軌道角運動量を有する電子らせん波の集束ビームを用いて、グラフェン等の二次元物質中に存在する3d遷移金属単原子から、L2,3殻電子励起スペクトルを電子エネルギー損失分光法(EELS)で計測し、単原子の磁性の解明を目指したものです。特に、電子らせん波の非弾性散乱におけるカイラル双極子選択則に着目し、化学結合環境の異なるグラフェン端部や欠陥中に存在する、3d遷移金属単原子のスピンと軌道磁気モーメントの比を明らかにしようとする点は高く評価できます。

EELSによる物質の磁性に関する研究は、L2,3殻励起スペクトルのL3とL2ピークの強度比から、磁性原子のスピン状態の解明がなされてきました。近年、球面収差補正された走査透過電子顕微鏡(STEM)の登場により、原子コラム分解能でのEELSによる磁性研究も進展してきました。

林氏は、STEM-EELS法を用いて、グラフェン中の鉄やクロム単原子からL2,3殻スペクトルを測定し、そのスピン状態が化学結合環境の違いにより異なることを明らかにしてきました。今回の奨励賞においては、新たにカイラルEELS法を単原子計測に適用し、より詳細な磁性の解明へと研究を進展させる予定です。

この研究は、原子を単に可視化するだけでなく、その量子状態を化学結合環境と関連付けながら探求する究極の分析を行うもので、電子顕微鏡学の更なる発展に繋がると同時に、原子物理学やスピントロニクスなどの分野へも大きなインパクトが期待されます。

林 永昌
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